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「うちにいる子に、お休みの挨拶をしてたのよ~」
しつこく絡んでくる男に、答えを与える。
「ああ、あの男の子?どうせなら連れてきなさいよぉ!」
「別の子よ~それより、この悪趣味な照明、何とかならないの?」
隣に座る男にぼやく。
鈴と同じぐらいの体つき。
顔はかなりいかつく、男性フェロモンを垂れ流している。
剃りたてのスキンヘッドが、照明を反射する。
「え?Hな気分にならない?あとは女子力アップとか?」
「まぁ、リラックス効果はあるけど……よく眠れるとかね」
えぇ~、と身をよじる大男。
確かに、ピンクには、エストロゲン(女性ホルモン)を活性化させる効果もあるという。
ただ、こんな見かけでも、そこらの女性より女子力は高いから必要ないだろう。
そう思い、だんまりを決めこむ鈴。
「それよりも、本当に大丈夫なの?」
「ええ、名刺も貰ったから間違いはないと思うけど……こんなの、何に使うのよ?」
「うちのもう1匹の子猫ちゃんのために、必要なのよ。なかなかガードが厳しくてね~」
昔の顔なじみではあるのだが、あまり会いたくなかったのは事実だ。
(いや、天敵かしら……?)
こちらが勝手にドロップアウトしたことを、今でも根にもっているに違いない。
非常に執念深い、いや、面倒な男。
でも、今回は彼の手を借りる必要がある。
「まぁ、詳しいことは聞かないわ。でもこれは貸しだからね!」
「了解~お返しを楽しみにしてて」
「あら、今すぐ返してくれて構わないけど。勿論、あ・な・たで……」
「お・こ・と・わ・り!」
腰に回される手を、叩き落としながら、何食わぬ顔でマティーニを口にする。
相手も本気ではない。
互いに、好みは年上の男性である。
だから、単なるスキンシップの1種だ。
「それにしても、繁盛してるわねぇ」
「あ~ら、あなたのしょぼい花屋が潰れたら、雇ってあげても良くってよ!!」
高笑いをする男に、笑顔でチョークスリーパーをかける。
あの花屋は、鈴の大切な宝物だ。
必死に腕を叩く男が、ぐったりしてから満足げに開放する。
「次、あたしの店をバカにしたらもっと酷い目にあわすわよ?」
「やれるもんなら、やってみな!」
ゼイゼイ言いながらも、中指をつき出す男。
負けず嫌いなケンカ仲間の一言に、鈴は微笑みながら拳を握った。
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