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「お帰りなさい。今日は早かったのね」
エプロンを脱ぎながら、由美子が微笑みかける。
「ああ……たまにはね」
頷きながら、椅子に座る。
目を見開いて、驚きを表しながらも、手際よく食卓を整える由美子。
その様子を静かに観察する。
春先頃から、時折浮かべていた憂いの表情が消えている。
(以前の、由美子に戻ったはずだけど……?)
微妙に感じる違和感に首をひねる。
今日、真奈から聞いた、仕事先の店長の件が気になって早く帰ってきたわけじゃない。
(……最近、忙しくて構ってやれてなかったからね)
勇樹の主張した結婚記念日のやり直しは、忙しさを見かねた由美子から、来年期待していると、やんわり拒絶されていた。
大規模プロジェクトは、今の所、何事もなく進んでいる。
だけど、圧倒的に時間が足りない。
今日も残業する仲間達に謝りつつの、特別な定時帰宅だ。
「家族サービスも大切だからね……」
「何か言った?」
久しぶりの2人で囲む食卓。
「いいや、何でもないよ……それより、由美子が作ったアレンジメントって言うのかな?花をバスケットに詰めたのを見せてもらったよ」
「えっ!赤木さん、本当に会社に飾ってくれたの!?」
食卓に身を乗り出さんばかりに、喜ぶ由美子。
「ああ、色合いが綺麗だったね」
真奈の近くにあったから、詳細には見ていない。
ぼんやりと覚えている感想を口にすると、ますます嬉し気に話し出す。
こんなに口数の多い由美子は、久しぶりに見た。
「そんなに、花屋の仕事は面白いの?」
「ええ!毎日が新しいことだらけで、失敗も多いけど楽しいわ!」
満面の笑みを浮かべる由美子に、妙な焦燥感を感じる。
何だか由美子が、遠くにいるみたいな。
カゴに入れて大切に飼っていた小鳥が、逃げ出して室内を自由に飛び回っているような。
うっかりすると、そのまま戸外に逃がしてしまいそうだ。
(何だか……気に食わないな)
自意識過剰ではないが、由美子の中で、勇樹は最も心を占める存在だった筈だ。
だからこそ、勇樹の行動に一喜一憂していた。
花屋での仕事に夢中な由美子。
今も、習ったばかりという技術を勇樹に説明を始める。
無意識に、由美子の自立の一歩を感じ、眉をしかめた。
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