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手ですくった湯を、肩にかける。
温かな湯に、由美子は溶けるようなため息を落とす。
いつもよりも、長めの入浴。
(お風呂から出たくないなぁ……)
入浴後に待ちうけることを考えると、ズルズルと時間を過ごしてしまう。
(でも、覚悟を決めなくっちゃ……)
ぐっ、と浴槽の縁を握って立ち上がった瞬間、前触れもなく、バスルームの扉が開かれた。
「あまりにも遅いから、待ちくたびれたよ」
声にならない悲鳴を上げ、両手で身体を隠す由美子を気にせず、浴槽の外で身体を洗い始める勇樹。
「も、もう出るから…」
「駄目。お湯の中で大人しく待ってて。それとも、洗うの手伝ってくれるの?」
もちろん手で優しくね、と悪戯っぽくウインクする勇樹に、黙って湯に身を沈める由美子。
バクバクと鳴る胸を押さえながら、バスルームから逃げ出す算段をする。
今更と勇樹は思っているのだろうが、見られたくないし、恥ずかしいのだ。
それにこのままだと、何を要求されるかわからない。
頭を洗い始めた勇樹。
目を閉じて、丁寧に洗っている。
(今なら、大丈夫のはず)
極力、水音がしないように、立ち上がる。
「……逃げるつもり?」
そのままの状態で、静かに声をかけられる。
いつもより、低い声に由美子の動きが止まる。
「逃げても良いけど……後が酷いよ?」
ゾクリ、と背中を走る震え。
以前なら、微かな期待も含んだ身震いだっただろうが、今はただただ恐ろしい。
言葉通り、勇樹は一晩中、由美子を攻め続けるだろう。
どんなに泣いて、許しを乞うたとしても……
「俺としたらどちらでも楽しめるけど、あんまり由美子を……うん?わかってくれたみたいで嬉しいよ」
パシャリ、と聞こえた水音に満足そうに頷く勇樹。
泡を洗い流して、濡れた髪をかきあげる。
鍛えられた身体に、滴る水滴。
その水滴が流れ落ちる様子に目を奪われる。
(あの雨の日……)
「いいよ、いくらでも見てくれて」
笑いをかみ殺した声で、話しかける勇樹。
「ち、違うから……いやっ!」
小さく身を縮めて、伸ばされた手から逃げる。
「そう?別に気にならないなら良いけど?」
壁際に置いてあった入浴剤を手に、わざと振って見せる。
「………お願いします」
「今回は特別だからね」
溶ける端から、湯が乳白色に濁っていく。
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