第7章 夕涼みの誘い

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勇樹の言葉を、必死に拒否する由美子。 そんなこと、できるはずがない。 先ほどから、かすむ頭でもはっきりわかる。 涙ながらの懇願も効果なく、より一層、勇樹を煽っただけだった。 胸元に加えられた愛撫で、熱を帯びた身体が痙攣する。 空気を求め、喘ぐ口元からは、意図しない嬌声がもれる。 満足げな勇樹の顔を、半ば伏せられた目が捉える。 (頭がぼおっとする……) 湯の温度よりも、熱くて脈打つ塊を両手で握りこまされ、その上から勇樹の手が覆いかぶせられる。 生き物のような熱塊が、期待で身を震わす。 その生々しい感触に、意識が遠くなる。 (もう……駄目……) 「心配しないで。きちんと教えてあげるから……由美子?」 くたり、と力なく勇樹の胸に倒れこんできた身体を慌てて抱きとめる。 真っ赤な頬で、ぐったりしている由美子。 急ぎ、抱きかかえ上げてリビングへ運ぶ。 「のぼせたか湯疲れかな?大分長い間、湯に浸からせてたし……反省」 先に、風呂に入っていた由美子。 あまりの長風呂に、待ちくたびれて突入したぐらいだ。 軽いスキンシップを楽しむつもりだったのに、ついつい加減を忘れて、前戯になってしまっていた。 冷たい濡れタオルで、首や足を拭ってやる。 いくら夏でも、風邪をひいてしまうだろう。 由美子の部屋から、夜着等を持ってきて着させる。 眠る由美子を眺めているうちに、夕食時に感じた微妙な違和感の正体がわかった。 髪や肌が以前よりも、手入れが行き届いている。 二の腕を取って確かめる。春先と変わらず、滑らかな白い肌。 さすがに、顔には日焼け止めを塗ってはいたが、手足にはほとんど塗っていなかったはずだ。 由美子は元々、色が白い。 そのため、日焼けするとすぐに赤くなり、見てる方が痛々しいので、毎年もっと塗るように、勇樹が言っていたからよく覚えている。 (髪の手触りも……そういえば) 先ほど入った由美子の部屋。 引き出しには、真新しい白と黒の下着。 中身重視派の勇樹にとって、色気のないベージュ色下着だろうが構わないし、てっきりそれが由美子の好みだと思っていた。 だから、セクシーな見覚えのないレース下着を見つけた時には驚いた。 (まさか……いや、由美子に限って……) 不倫なんてできる筈がないと思いながらも、一抹の不安が胸をよぎった。
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