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「うっ…私……?」
「目が覚めたかな。水、飲める?」
痛む頭を押さえながら瞼を開くと、心配げに覗きこむ勇樹。
こくり、とうなずくと、ゆっくりと背中に片手が回される。
カラカラに乾いた喉が、期待で小さく鳴った。
「口、もっと開いて……」
冷たいペットボトルの飲み口のかわりに、温かい唇が押し当てられる。
口移しで与えられる水。
飲み切れなかった分が、口の端から滴り落ちる。
「……んくっ……はぁっ……」
「もっと欲しい?」
生き返った心地で、息をつく由美子のあごを捕らえたまま、尋ねる。
乾ききった喉は、更なる潤いを求める。
まだまだ足りない。
熱で揺らぐ頭のまま、無意識に頷く由美子。
「……お望み通りに」
嬉しげに微笑むと、ペットボトルをあおる勇樹。
夢中で水を求め、伸ばされた舌。
それを、優しく愛撫しながら少しずつ水を与える勇樹。
「う~ん、今日もお預けかな……」
十分に水を与えられ、満足げに眠りに落ちる由美子。
思う存分、由美子の口内を味わった勇樹は、残念そうに横たわる姿を見下ろす。
まだ、完全に回復していないだろう由美子を、起こして強要するのは気の毒だ。
そっと、抱き上げて寝室に運ぶ。
大規模プロジェクトは待ってくれない。
何とか時間を作った今日の分も、埋め合わせをしないといけないのだ。
(あーあ……早朝出勤かな)
そして、明日からお決まりの残業フルコース。
ため息をつきながら、由美子の頬にキスを落とす。
すれ違いばかりだ。
せめて、少しでも一緒にいたい。
由美子の横に、身を滑らせる。
(夏祭りか……)
”ここの屋上からも綺麗に見えるんっス!”
花火もあると、元部下の藤沢が言っていた。
結婚当初は、外出が苦手な由美子を誘い出し、何かと遊びに行ったものだった。
何時しか、仕事を言い訳にそうした機会も減っていった。
女から妻へ……
”釣った魚に餌はやらない”という言葉がある。
勇樹も含め、世間一般の男はそういうつもりで行動していたわけではない。
ただ女性の関心を惹くための、過剰なサービス期間が終わり、落ち着いた安定した関係になったということだけなのだ。
行動や態度に表さなくて伝わるだろうと思う男性と、行動や態度で相手の愛情を確認する女性。
その違いがこうした事態を引き起こす。
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