第7章 夕涼みの誘い

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「今はシャンプーのCMを制作中なんだけどな……」 純也が口にした会社名。由美子も知っている。 日本屈指の大企業、三丸グループ傘下の製薬会社だ。 「凄い!テレビで流れるのを楽しみにしてるねっ!」 「あー今ちょっと、な?」 途端に顔をしかめる純也。 「仕事、順調にいってないの?」 「初めての仕事だからって言い訳はしねぇよ……でも、何とかするから心配すんな!”世の中、利用できないものはない”って……俺の師匠の受け売りだけど」 「凄い人だね」 内容はともかく、野性動物のような純也をここまで懐かせているのが凄い。 「今度会わせてやるから。それに、ちょっと思いついたことがあるし……ほら、もっと食べろよ?」 少し笑い声をかぶせながら、促す純也。 食べ終えた本人は、片肘をテーブルにつけて、由美子の食事を見守っている。 (うぅ……食べにくいよぉ) 口元に注がれる視線に、他意がないのはわかっている。 それでもなお、止まりがちな手。 窓からの光が、柔らかく髪を撫でる。 満腹感からか、心からの笑みを自然に浮かべる純也。 細められた目にも、いつもの皮肉気な色は見られない。 「……やっぱ、好きだな」 「えっ!?」 ぽつり、と呟かれた一言に見開かれる由美子の瞳。 純也の言葉が、頭に染み込んでいくにつれて、頬が強烈に熱を帯びる。 まるで、真夏の太陽に晒されているように。 恥ずかしくて、純也の顔がまともに見れない。 「お前の髪、光が当たってキラキラしてる……」 向かい側から伸ばした手が、由美子の髪を一筋すくう。 指先で優しく弄ぶ。 「髪……?」 「手入れされた髪って、そそるよな~美容師魂がくすぐられるぜぇ!あの女とかも……何、怒ってるんだよ?」 窓際に座る女性客をあごで示しながら、眉をひそめる純也。 「べ・つ・に!」 心を動かす発言を無意識にする、年下男性に翻弄された自分が悲しい。 そもそも、互いに艶めく感情は持ち合わせていない。 ただ、女性を意識させられる言葉にときめいてしまっただけだ。 「純也君って実は小悪魔タイプ?」 「はぁっ?!」 その気がないのに、相手を自分の魅力で右往左往させる。 しかも、天然産だから非常に性質が悪い。 何もわかっていなさそうな純也に、ため息をつきながら、フォークを握りなおした。
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