第7章 夕涼みの誘い

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「あんたは小柄だから、小さめな絵柄が良いんじゃねぇか?」 独り言を言いながら、いくつかの浴衣をピックアップしていく。 逆に、長身の女性は、大きめの絵柄が背を小さく見せるとのこと。 大きい柄に囲まれると小さく、小さい柄に囲まれると大きく見えるという、錯視の効果らしい。 「うん、こんなもんだろ!」 数点の浴衣を手にして、由美子の元に戻ってくる純也。 多色使いの華やかな色柄よりは、落ち着いたシンプルな色柄が多い。 「何だか懐かしい柄……」 手にした浴衣の柄を撫でる。 「おう、古典柄って言うんだ。こっちの方が男受け良いからなー俺も派手すぎるやつよりは、こっちの方が好み」 純也の選んだ浴衣は、どれも由美子好みで、悔しいがなかなか1つにしぼりきれない。 最終的に、白と紺の浴衣を両手に、困った顔をする由美子。 (どっちも素敵で、選びきれないよ……!) 「昼の明るい日差しの中なら、紺色が綺麗に映えるし、夜なら白色が闇に浮かんで涼しげに見える。旦那と出かける時を考えて選べば良いんじゃねぇか?」 勇樹との外出は、昼過ぎから夕暮れ時が多い。 (そうなると、こっちだけど……) 深い青に染められた紺地の浴衣を選ぶべきなのだが…… 迷いながらも、由美子が選んだのは白地の浴衣だった。 「帯はどうすっかな~」 白地に小さな朝顔柄が散らされた浴衣を羽織る由美子を横目に、帯を吟味する純也。 選んだのは濃紅色の帯。赤は紺地にも似合う色らしい。 「浴衣に入った色を選ぶのが無難だけど、反対色を選ぶのもオシャレだぜ。ほら、浴衣の柄が控えめだから、華やかになるだろ?」 両手を腰に回して、器用に帯を巻く純也。 普段触れられない場所だからこそ、敏感に反応を返してしまう。 「じ、純也君って着付けもできるんだね!」 気がつかれないように、わざと大き目な声で話しかける。 「バーカ、適当だから期待すんな」 少し照れくさそうに、ギュッと両手に力入れる純也。 腰がくだけそうになって、慌てて踏みしめた足に力を入れる。 自己流で結ばれた帯は、通常とは異なっていたが、それはそれで可憐に見えた。 店内をぐるりと歩きながら、小物類も揃えていく。 「いやーっ!何でサイズ知ってるの?!」
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