第1章 小さな変化

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とげとげしい勇樹の声を聞いたからか、なかなか寝付けない。 寝返りを繰り返す由美子の耳に、隣室から低い話声が聞こえた。 明日の打合せだろうか。仕事とはいえ、営業職は大変だと思う。 由美子も結婚前は、勇樹と同じ職場に勤めていたからよくわかる。 理不尽な顧客の要求や横柄な取引先の態度にさらされ、更にはノルマという重荷まで背負わされる。 口下手で人見知りの由美子にはとてもこなせない仕事であり、その中で活躍している勇樹は凄いと思えど、部署も職種も違う。 お互い、ただの同僚にしか思っていなかった。 そんな二人の関係が変化したのは、ある年のクリスマスだった。 「どうするんだ、明日には必要なんだぞ!」 「申し訳ありませんっ」 怒声をあげる上司の前で、由美子はひたすら頭を下げる。 明日のクリスマス販売に配布する景品が、発注ミスで未包装のまま届いていた。 華やかなクリスマス商戦。 しのぎをけずる各社は、自社のサンプルや景品にさまざまな趣向をこらし、消費者の目をひきつけようと策を練る。 そのまま渡すという案も出たが、見た目上、ライバル会社との差が出てしまうのはあきらかだ。 結局、事務員総出で包装することになった。 「ごめん、今日だけは勘弁して」 「彼と約束してるの…」 申し訳なさそうな、でも、どこか浮き立つような顔で次々と席を立つ女子職員。 今日はクリスマスイブ。 終業の音楽が鳴り終わっても残ってくれている数人もどこかそわそわした雰囲気だ。 「皆さん、ありがとうございます。後は私がやって帰りますから」 「しかしなぁ…」 時計をチラチラ見ながらも、心配そうに上司が声をかける。 人海戦術で大分片付いたが、残りは5箱。一人では大変な量だ。 「大丈夫です!包装にも慣れましたし。娘さんが帰りを待っていますよ」 多少渋ったが、愛娘と食べるケーキの魅力には勝てず、上司は「無理をするな」の一言とともに帰宅する。 それに従い、残りも謝りながらも次々と部屋から出ていった。 途端に静かになった部屋で、由美子はため息をついた。 「イブの日に何やってるんだろう、私」 自分の情けなさに、涙がにじんだ。 「といっても、一緒に過ごす相手もいないけどね。さ、仕事しよ」 上を向いてこらえると、黙々と作業を再開した。
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