アボカド殺人事件

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が、悲劇はこれで終わらない。ぐったりとしたゲンゴローを見つけた、主人が金切り声を上げて泣き叫び、ゲンゴローの名前を呼ぶ。しかし、揺すっても、叩いても彼は目覚めない。ゲンゴローは死んでしまったのか? いいやつだったのに、私の悲しみをよそに主人は怒鳴り声をあげながら、隣の部屋に走っていき。そこから口論が聞こえてくる。どうやら、主人とその夫が言い争いをしているようだ。言葉の切れ端をつなぎ合わせるなら、主人はゲンゴローを殺したのは夫だと思っているらしい。違う、それは誤解だ。確かに夫は前々からゲンゴローのことを邪険に扱うことが多かったが、それは彼が猫が苦手なだけで、殺すつもりなんてあるわけがないし、今回の一件と彼は無関係だ。冤罪だけれど、私は声を発することができない。 ドスッ!! 隣の部屋から肉と壁がぶつかり合う生々しい音が響き渡った。主人の悲鳴と夫の怒鳴り声が壁越しにもわかる。ドスッ、ドスッと数回、殴る音が続き、シーンと静寂になった。 何が起こった? 理解を飛び越えていく。ゲンゴローは死んで、そして、あの主人も? トタトタと頼りない足音が聞こえてくる。そこにいたのは返り血で真っ赤に装飾された夫の姿、その瞳は虚ろでどこを見ているのかさえわからない。ただ、事実を一つあげるなら彼は、主人を撲殺した可能性が高い。 夫はおもむろに、包丁を握りしめた。私を切ったあの包丁だ。何をするつもりだ? 夫はそれを両手で握りしめ、そのまま首にズサッと突き刺した。血管を切ったせいで血液が噴水のように吹き出し、勢いよく突き刺した包丁は首を貫通する。呼吸ができない夫はヒュウーヒュウーと息をもらしながら、ぐらぐらと足元をふらつかせ、そのまま横倒しに倒れてしまった。ドクドクと広がっていく血の海に夫は沈んでいく。誰も悪くないのに、誰もが死んだ。 のちに通報でやってきた警察官がゲンゴローの死体を見て、一言、もらす。 「こりゃあ、アボカド、食って喉に詰まらせたんだろ」 つまり、この悲劇の犯人は私だった。
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