第1章

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「ごめんな、なんべんも電話もうてたのにかけんで」 「そんなん気にせんといて。ほんで、ちょっとはマシになったんかいな」 「ああ、やっとひと区切りついたとこや」 「そらよかった。ほんでバンドの話しやねんけどな」 「バンドの話し?」 「こないだ飲みにいった時にゆうてたやんか、ケンの作った曲やろて」 「ええ、あれ、ほんまにマジかいな?」 「マジやてゆうたやんか、なんべんも」 「ほんでも、みんな集まらんやろ」 「それがな、連絡とったら、みんなつかまったんや」 「ほんまに? みんな元気そうやったか」 「電話で話した限りではな」 「そうか、懐かしいなあ」 「でな、お前、この次の日曜あいてるか」 「ん? なんもないと思うけど、なんで」 「スタジオ押さえたんや」 「マジ?」 「マジやてゆうてるやろ。なんべんいわせんねん」  タケによると、サイドギターのテツは銀行員で会社の独身寮に入っていて連絡もす ぐに取れたとのこと。コンピュータのシステムエンジニアになっているヴォーカルの ヤスもまだ独身で実家にいてすぐにつかまったらしい。一番難儀をしたのがドラムの シゲで、興行関係の仕事をしていて地方公演の担当のため出張が多くなかなかつかま らなかったそうだ。だが異動で担当が替わることになり少し暇になるとのこと。シゲ は結婚していて子供も一人いるそうだ。みんなタケの提案したバンドの復活に乗り気 だったらしい。なかでもシゲが乗り気で、すぐにでも集まろうといい出して、日程調 整の段階にいきなり進んだとのこと。  現金なもので、そんな話しを聞くとロックバンドにいた頃のことがまた懐かしく思 い出されてきた。  ケーコと夕食の約束をしていたのだがギターの練習がしたくなったので疲れがとれ ないし少しお腹もこわしていると嘘をついて断った。ケーコは残念そうだったが拗ね たりはしなかった。  ギターを弾きながらいい女だなと思っていた。 〈●月▲日〉  プレゼンは午後からだった。  朝から完成したもう何度も目を通して手直しを重ねた企画書を読み、さらにいくつ か微妙な手直しを入れた。最終的に手にした企画書にさらにもう一度目を通して完璧 な企画書だと自信を深めた。その自信のせいもあって実際のプレゼンも非常にうまく いった。クライアントの感触も上々だった。  ご機嫌で街を歩いていて楽器屋が目にとまった。ショーケースにフェンダー・ジャ
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