第1章

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    ロ ッ ク バ ン ド に い た 頃  ロックン・ロール【rock’n’roll】   黒人のリズム・アンド・ブルースと白人のカントリー・アンド・ウエスタンの融  合から生まれたアメリカの大衆音楽。叫ぶような黒人的唱法、アフター・ビートに  よる明快なリズムを特色とし、一九五〇年代後半から世界的に流行。  ロック【rock】   ?Aロックン・ロールの略。ロック・ミュージック。  ロック・ミュージック【rock music】   ポピュラー音楽の一。ロックン・ロールから発展したもので、電気楽器を多用し、   明快なリズムを持つ。                           〈以上、広辞苑第三版より〉  カウント    ONE  TWO  THREE  FOUR    第一章 日々 〈●月▲日〉  朝、駅のホームに着くと通勤用の鞄からウォークマンのイヤホンをひっぱり出して 両方の耳に装着する。イヤホンとウォークマン本体をつなぐコードの途中にあるリモ コンのスイッチを操作し、カセット・テープが回りだす音が聞こえてくると、いつも 乗る電車がホームに入ってくる。  電車のドアが開き、もうこれ以上乗れないんじゃないかと思われるほどの乗客、ド アが開いた拍子に車内からの圧力で車外に押し出されそうになる乗客たちの背中にむ かって自分の背中を押しつける。  ドアが忙しげに閉じる前には身体は車内に納まりイヤホンから流れるローリング・ ストーンズの『START ME UP』の飛び切り上等のリフが鼓膜を揺らし大脳 に電気刺激を与えてくる。  超満員の車内で身体は不自然に折れたままなので立っているだけで苦痛なのだがロ ーリング・ストーンズのリフがそれを緩和してくれる。  目の前のやはり身体を折り曲げて立っている禿げあがった頭頂に無理遣りサイドの 髪の毛をバーコードみたく油で貼りつけたオヤジが露骨に不快な表情で睨んでいる。 イヤホンから音が漏れているんだろう。電車はそんな乗客たちの状態とは無関係に走 り続ける。見慣れた風景が車窓を横切っていく。  会社勤めを始めてから音楽を聴く時間が圧倒的に減った。  学生の頃は音楽がなければ生きていけないんじゃないかと自身で疑うほどいつも音 楽ばかり聴いていたのに。通勤中のウォークマンが今では唯一の音楽を聴く時間だ。
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