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タケとは英語のクラスが同じでよく音楽の話しはしていてギターが少し弾けること
も話したことがあった。だけどリードギターにと誘われた時にはかなり躊躇した。高
校の時に文化祭などでギターを弾いたことはあったが聴衆はほとんど校内のやつらだ
しロック好きがそれほど多くいるわけでもない。だからリードをとるのも平気だった
が本格的にライヴハウスで演奏するとなるとロック好きのやつが聴きにくるじゃない
か。そんなやつらの前で演奏するほどうまくはないんだと一度は断った。その時、タ
ケはこんなことをいったっけ。
「やるからにはうまいバンドを目指さんとあかんやろけど、うまいからだけでそいつ
とバンドやりたいなんて思わへん。バンドてそんなもんやないやん。やっぱり気のお
うたやつとやりたいやん。俺はお前とやりたいねん」
その言葉に負けてしまったのだった。
しかし、今思えば、そんなタケの言葉もその年頃特有の熱気ゆえのもので実際のと
ころはほかに適当なリード・ギターのなり手がいなかっただけだ。タケとも、たまた
ま名字の五十音が近かったので同じクラスになり知り合いになったにすぎない。ほか
のメンバーたちだって大同小異だ。偶然、大学という同じ一つのコミュニティの構成
員となり、その中でたまたま寄り集まった小さなコミュニティ内コミュニティの一つ
としてロックバンドがあっただけだ。
ロックバンドはちょっと変わったコミュニティで、思うに、とても原始的なコミュ
ニティだ。閉鎖的で無駄な構成員を抱えるのを好まない。構成員はそれぞれ決まった
役割を担わされている。それに自然発生に近い形で生まれることが実は多い。なぜか
周囲にそれぞれのパートの楽器が弾けるやつがいたなんてことが偶然にあって初めて
ロックバンドは生まれる。それも幾多の音楽のジャンルの中でも偶然に同じものを嗜
好する連中がいて初めて。そしてそんな偶然が結構あるのだ。
ロックン・ロールっていう音楽自体が偶然性の産物であるように(だいたいオフビ
ートなんて偶然の産物以外のなにものでもない)ロックバンドもまた偶然の産物なの
だ。本当にかっこいいロックバンドを意図的に作るのは難しいし本当にかっこいいロ
ックン・ロールを意図的に演奏するのは、そういうわけでもっともっと難しい。偶然
の産物であるロックン・ロールはその存在自体が確たる根拠を持たないから。曖昧な
存在だから。
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