第1章

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友人も変わっていく。幼稚園から小学校、中学校、高校、大学、そしてそれぞれのク ラス替えやクラブ。就職、異動、あるいは転職。人は誰もコミュニティの中で孤立し て生きていけるものではない。しかもそのほとんどが自らの意志で選択して所属した わけではないだけに尚更。積極的に選択しているような錯覚はある段階からは十分に 持てる。大学や会社なんて自分で選んでいると信じることは簡単にできる。だが厳密 にはA大学もB大学もコミュニティの種類は同じで質も微妙な違い以外に変わりなん てない。会社も同様だ。進学するとか就職するとかいう誰もがすることをして自分の 意志で選択したなんていう方がおこがましい。  友人なんて、そんなものだというとクールすぎるだろうか。  もちろん、昔、自分が所属したコミュニテイでの友人たちのことを懐かしく思い出 すことはある。友人になった理由がクールなものだからといって結果として友人にな ったタケのことを懐かしく思ってどこが悪い?  タケは待ち合わせ場所のホテルのロビーにあの頃のように暑くもないのに汗だくに なってやはりあの頃のように十五分ほど遅れて現われた。 「ごめんごめん、えらい道が混んでて」 「タクシーで来たんか」 「いや、通勤、車やねん。昨日はたまたま営業車修理に出しとって電車やったんや」 「ほんならメチャメチヤ偶然やったんやな」 「そういわれたら、そうやなあ」 「いつからや、今の仕事?」 「もう三年くらいかな」 「たしか最初、スーパーに勤めてたよな」 「うん、、五年くらいおったかな。転勤がおおうて。それも日本中やしな。今の会社に 入るまでの二年くらいは、あちこち転々としとってん」 「車売んのもたいへんやろ」 「今はな。俺が入った頃からついこないだまでは、よう売れてたからわりあい楽やっ たんやけどなあ」 「景気よかったもんな、ずっと」 「今は、ほんまにあかんわ。まだ人気ある車種の担当やったらましやねんけど、一番 売れへん車種の担当なもんやから暇でしゃーないわ。楽といえば忙しかった時より身 体は楽やけど、今度のボーナスはほんまに心配やわ」 「そらうちもいっしょや」 「広告もあかんのん?」 「企業が節約すんのは接待費か広告費と相場は決まってるやろ」 「景気悪いねんなあ、どっこも」  居酒屋で仕事がらみの近況を語り合っているうちに二人とも酔ってきた。とはいっ
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