第1章

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怖は、他人には、理解してもらえないだろうが。とはいえ、監禁遊びに対する興味を捨て ることもできなかった。  僕は、真理子に嘘をつく役目も、石津に依頼した。石津は、何度も家に来たことがあり、 真理子とも、打ち解けた関係になっていたし、僕を一流作家に育ててくれた恩人として、 彼女は石津を信頼してもいたから。真理子も、石津のいうことなら、疑わないのではない かと思ったのだ。  石津は、快く引き受けてくれたように見えた。 「ただし」  と石津は、言葉を接いだ。 「俺だけを、悪者にするのはゴメンだぜ」 「どういう意味だ?」 「俺のつく嘘に、お前も合わせること。絶対に、奥さんに嘘だと、ばらしてしまわないこ と」 「ば、ばらすかよ、こんなこと」 「誓えるか?」 「誓えるよ。ばらすわけないだろ」 「俺とお前だけの秘密だぞ。ほかの誰にも話すなよ」 「いったい、誰に話すっていうんだよ、こんなこと」 「日本国中にむかってなら、話してもいいんだぜ」 「どういう意味だ」 「その体験を作品にするんなら、いいってことだ」 「作品を書き始めるのが、この遊びを手引きする条件ってわけか」 「ただで、こんな遊びができるって思うほど、お前も世間知らずじゃねぇだろう。嫌だっ たら、やめてもいいんだぜ。犯罪まがいの遊びの手引きなんて、俺だって、できることな らやりたかねぇや。お前が、しらけないように、トウシロの女まで用意してるんだから。 下手すりゃ、手が後に回っちまいかねない」 「わかってるよ。やめるなんていってないだろ」 「約束だぜ。俺のいうことを聞いてりゃ、悪いようにはしないって」 「じゃあ、真理子にはうまくいってくれよ」 「そうだな。お前が、あんまり仕事にかからねぇから、罐詰にするってことにでもするか」 「そんなので、うまく騙せるかな。俺、今まで一度も罐詰にされたことないし」 「だから、不機嫌そうに家を出てこれるじゃねぇーか。それに、実際にお前は、ある種の 罐詰になるんだしよ」 「それもそうだな」 「だけど、どっちにしたって、終わって帰った時には、自分で嘘をつかなきゃなんねぇぞ」 「そ、そうだな。大丈夫かな」 「苦痛が、少なくてすむ方法が一つある」 「なんだ、それは」 「帰ったらすぐ、罐詰になったおかげで、仕事がのってきたからといって、本当に作品を 書き始めることだ。お前は、集中的に書くタイプだろうが」 「悔しいけど名案だな」
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