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違った時には「あの野郎なめやがって」と、彼女に聞こえるように、一人ごち、部屋に入
るや、思い切り力をこめてドアを閉じた。そして、ベッドに潜り込んで、布団に頭からく
るまって、ほくそ笑んだ。うまくいった、と思った。
翌日、いつものように正午頃に起きると、妻は一週間分の下着などの着替えをバッグに
詰めてくれていた。僕は、不機嫌そうに見えるように努めながら、コーヒーをいつものよ
うに二杯飲んで「この次に、こんなことがあったら、もう二度とK出版の仕事は受けない
から」と捨て台詞を残して家を出た。
それから一週間、僕、は幻想的といってもいい遊びに耽った。こんな快楽は、もう二度
と経験できないだろうと思った。
催眠術をかけられた女は、僕のいうことを何でも聞いた。猟奇的なと形容できるセック
スを、嫌になるまで繰り返した。女を殴り、蹴り、縛り上げ、蝋燭や鞭で責め、苦痛の表
情を楽しみ、思いつく限りのあらゆるものを、女の局部に挿入した。僕が疲れると、石津
が僕と代わった。石津が女をいたぶっている様を、僕はノートに描写した。石津は、僕に
より一層の刺激を与えようと、必要以上に女に残酷に振る舞った。
この実体験の描写を最大限に取り入れたのが、僕の第六作の、最も売れた作品『監禁』
だ。この作品は、映画化されたのだが、どう作っても成人指定を外せないことが、逆に話
題になり、ホラー作家、牧野慧の渾身の一作となった。
うっかりしていると、書けない原因が、自身の才能が渇れたせいに思われてくる。無理
にでも、ほかの原因を見つけたくなってしまう。それを、僕は毎日の生活のどこかに書け
ていた時と比べて、違うところがあるせいだと思い込もうとした。その結果、些細な生活
習慣の変化が、仕事を滞らせていると、信じて疑わなくなってしまった。変化したところ
を見つけるために、僕は毎日の生活を、それこそ秒刻みにチェックし始めた。一番の変化
が、そんなチェックをしていることだとは気づかずに。
目覚めは、正午前後。この前後というのが気に入らない。十一時五十七分くらいには、
目覚めていたはずだと思えて仕方がない。なぜかというと、目覚めの一服を吸い終わる頃、
近くの小学校の正午のサイレンを、聞いていたはずだという気がするからだ。目覚まし時
計で起きるのではないのに、分単位まで、同じ時刻に目が覚める方が珍しい。だから、本
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