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「貝にまでふられるとかマジ勘弁……」
誰かがあたしの心の声を代弁する。
思わずあたしは顔を上げた。
「!!」
そこには同じ歳くらいの男性がいた。
あたしも横でモサモサと熊手を使っている。
……どうやらこの人もとれていない様子。
網の中、空っぽ……。
いやいや。
よく見るとこの人中々のイケメンかも。
長めのコーヒー色の髪に切れ長の黒い瞳。
服の上からだけど中々の筋肉質っぽい。
座高からして……背は高いと見た。
「……何か?」
彼があたしの方を見る。
しまった!
甘いマスクの彼を思わず凝視していた。
「いえ……」
急いで視線をそらし潮干狩りを再開する。
「空っぽだ……」
またもや彼が呟く。
彼の網を見ると心なしか貝が入っている。
「空っぽじゃないじゃないですか?」
思わずあたしは口を挟んでしまった。
「貝の話じゃなくってさ……心の話さ」
彼はそう言って大きなため息をついた。
「溜息はついたら幸せ逃げちゃいますよ?」
……この言葉、そっくりそのまま自分に返したいわ。
「失恋して癒されようとここに来たけど逆に空しくなってね……」
熊手をポイッと投げて彼は空を見上げた。
潮風に揺れる彼の髪からはふわりといい香りがする。
ダメダメ!
失恋したばかりなのに惚れたらダメ!
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