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「あたしと一緒ですね」
気持ちを落ち着かせあたしは冷静に話す。
「へ?」
彼はびっくりしたようにあたしを凝視する。
「あたしも同じ経緯です」
ふられて潮干狩りに来る。
こんな珍しいことする人がいるって何か不思議だった。
「君、面白いね」
クスクスと彼は笑う。
笑った顔もまた……って、あたしこんな事ばかり考えて欲求不満なのかしら?
「貴方の方こそ」
彼の笑顔にあたしは見とれてしまう。
優しさがにじみ出たような彼。
どうして失恋しちゃったんだろう?
いやいや。
人の悲しみに付け込んだらいけませんよねぇ。
「どうして潮干狩りに?」
暫くして彼はあたしに尋ねた。
「……海に来ようと思ったんです」
海で洗練されたかった。
貝を掘りながら辛い事を忘れたかった。
波の音に傷心の心をかき消してほしかった。
…… …… …… ……。
色んな想いを抱えてここにやってきたんだ。
「そっか」
彼は一瞬あたしを見てまた視線を熊手に戻し貝を掘り始めた。
「貴方はどうして?」
質問されたら聞き返す。
聞かれたら聞き返したくなるのが人間の……いや、あたしの性(サガ)。
「俺は……。
海が好きだから。
大好きな海に慰めてもらおうと思ったんだ」
貝を掘る手を止めて彼は広大な海を眺めた。
彼の瞳に映る海はどう見えてるんだろう……。
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