狂った主人と壊れたソムリエ。

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歴史を紐解くことなく、どこにだって権力者はいる。決まって、そういう奴は自分こそ偉く、他者より有能だと思い込んでいるバカばかりだと、男、ソムリエはそんなことを考えます。 特別、ソムリエの性格がねじ曲がっているわけでも、彼の性根が腐っているわけでもありません。彼は真面目な男なのですが、彼が仕えるご主人が上記に書いたような、いわゆる、世の中の権力者を思い描いたような奴ということだけです。 偉そうで、口うるさくて、細かいことばかり気にかけるくせに自分はいっさいやらず、使用人におしつけ怒鳴り散らす。そのくせ利益や功績は独り占めしてしまう、欲張りな主人というわけです。 そんな主人に仕えていれば、愚痴の一つや二つを漏れるというもの、しかし、その愚痴を聞かれればどんな制裁を受けるかわかったもんじゃありません。そういった恐怖で縛った雰囲気が主人を傲慢にしていくのですが、誰も口出しできない雰囲気としてあるのでした。 ソムリエの職業は、主人にワインを提供することでした。真面目なソムリエは主人のために身を粉にしてワインを探し回りクタクタになりがら、提供するのですが、一向に主人は満足してくれません。 もっと寄越せ、美味いワインを持ってこい。贅肉でデップリとした腹を抱え椅子に腰掛け主人が怒鳴ります。鼻息は荒く、少し歩くだけでも息切れしてしまうその姿を揶揄するように、欲張り豚と呼ばれていました。 もちろん、面と向かってそんなことは言いませんし、言えるわけもありませんが、主人の我が儘は日に日につのっていきます。特に主人はワインの飲酒をなによりの楽しみにしていました。 当然、誰よりも美味しいワインが飲みたいと思うのですが。なかなか集まりません。ソムリエは毎日のように駆けずり回っていました。 金はあります。名誉もあります。地位もあります。ですが、どうやったって主人の欲は収まりません。日に日に膨れ上がっていく『欲』は限度というものを知らないのです。 あれがほしい。これがほしい。これがやりたい。あれがやりたい。そういった我が儘をずっと叶え続けてもらってきた主人には、我慢することが理解できませんでした。 肥大しきった自己主張は、主人の『欲』をさらに膨らませていきます。 ワインを提供する。ソムリエも例外ではありません。ソムリエは真面目な男です。愚痴をこぼしても自分の仕事に誇りを持っていました。
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