狂った主人と壊れたソムリエ。

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これで大丈夫。そう仕方がないことなんだ。これは間違っていない。正しいことなんだとソムリエは言い聞かせます。殺人を犯した事実を少しでも払拭したかったのです。店主に生き血を、渡してソムリエはワインを受け取りました。 そのワインは今まで見てきたどんなワインよりも、色濃い物でしたがソムリエには気にかけていられる余裕はありません。 いち早く、主人の下に戻ることしか考えていませんでした。そのワインが『何で』できているかなんてこれっぽっちも考える余裕もないまま、首を長くして待っていた主人にワインを振る舞ったのです。 最初に鼻についたのは、その匂いでした。どこか鉄臭く、ワインもドロリとしています。あきらかに偽物を掴まされたと内心、焦るソムリエをよそに、主人はそのワインを一口、飲んでしまいました。ソムリエは主人から罵倒される覚悟と殺人を告白しそうになりましたが、その日に限って主人は何も言いません。ただ、狂ったように、そのワインを飲んでいたのです。 まるで、浴びるような勢いでゴクゴクと、飲み干してしまったのです。 次の日、主人は言います。ソムリエ、あの酒を買ってこいと、それはソムリエにもう一度、殺人を犯せと言っているようなものでした。そんなこと知らない主人の申しつけを断ることもできず、ソムリエは二度目の殺人を犯します。 まずは背後に周り、紐で女の首を力一杯、締め上げて気絶したところを、片腕の血管を切り裂いて血液を搾り取っていきます。より多くの生き血を持って行けばその分だけ多くのワインを貰えるはずだ。もう、ソムリエには罪悪感はありませんでした。ただ、仕事を全うすることだけしか頭になく、殺人を犯すことにためらいも無くなっていきました。 ワインを求め、『欲望』のままにソムリエは殺人を犯します。全ては主人のために…………。 そんなことが長続きするわけもありません。主人は狂ったようにワインを求め、金を潰し、地位を潰し、名誉を潰していき、ソムリエも殺人を重ねていきます。失ってもいい。何を犠牲にしたって構わない。ただ、あのワインが飲みたい、あのワインが欲しい。 狂った主人と、壊れたソムリエはとうとう全てを失ってしまいました。家も使用人達も、何もかも………。 全てを失った主人は、自分でワインを手に入れようとし、ソムリエはそれを拒みます。ソムリエは自分が仕事をできなくなることを恐れたのです。
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