第1章

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「雫クエスト」 本が好き。 独特の懐かしさを感じさせる匂い、 なぞる紙のページの感触、質感 そして、視界を埋めつくすほど 溢れんばかりの活字 脳内を埋めつくす文字の配列 芸術ともいえる文章のなかの空白 空想と創造の産物 頁を捲るごとに繰り広げられる物語たち 「うっわ、わわわわわっ!?」 そして、唐突に迫りくる本の角たち ・・・・角? 「いっ・・・痛たたたたたた」 石鹸の薫りに、透き通るような空の蒼 を彩った細い髪ーーー・・と呆れたよう、な、瞳が・・・ーーーー ーーーー・・・・ーーーー・・・ 「また本雪崩すか」 「返す言葉もございません」 分厚く重く硬い本に囲まれながら 本雪崩から出れなくなった私を 千尋君が、呆れたように諦めたように 溜め息を吐き、本をひとつひとつ 棚に戻していく。床に寝ていたからか、 本雪崩に巻き込まれたせいなのか 身体中あちこちが悲鳴をあげる。 「うー、身体中痛い。 あとで湿布貰いにいこうっと」 「自業自得ですよ。 なんですか、人の顔になんかついてますか?」 「・・・え、あ、なんだか 千尋君の目の色綺麗だなーって」 「男相手に綺麗とか、嬉しくないですよ」 「綺麗、というかいや、綺麗なんだけどさ、凄く懐かしいんだよね?なんでかな」 「知りませんよ。 あ、でも、さっきずっと誰かの名前みたいなの呟いてましたよ」 「え、私寝言言うの?! なんか、ショック!」 「結構いびきとかも、自分では気づかないうちにかいてたりとかしますもんね」 「うんうん、よく聞くねそれ」 本棚に全て本をしまい終えると 千尋君は、「今度は助けませんから」 といって帰っていってしまった。 根はいい子だけど、素直じゃないなぁ、 また 助けてくれるんだろうなぁ、 と思いながら ふと、手が止まる。 そういえば、私は 誰の名前を呼んでいたか聞くのを忘れてしまっていたなぁ。 まぁ、今度聞いてみよう *
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