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「さようなら」をはっきり告げないまま終わった。
個人ブログを閉鎖して、ラインでもブロックをかけて。
直接やりとりができるツールから手を引き、ナツメの秘密の恋愛は終わりを告げた。
謙介(けんすけ)とのラインのチャット履歴を削除した直後、リビングのドアが開いた。反射的にナツメはスマートフォンの画面をテーブルに着けた。
「おはよう」
ナツメは一吹(いぶき)を見て微笑んだ。
一吹はまだ瞼の半分しか開いていない目でナツメを見ると、無言で洗面所に向かった。一吹の細い背中を見送り、ナツメは着信履歴にも謙介の番号が残っていないか確かめた。
朝食の用意はしない。交際当初から結婚5年目の今日に至るまで、一吹が朝食をとったことは一度もない。
それが彼のライフスタイルだと、ナツメはよくわかっている。
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