第1話「【鉄のハインリヒ】と【赤ずきん】」

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【茶鼠】の変な言葉は江戸弁、いわゆる江戸ことばだ。 しかし、なんとも怪しい喋りなので、きっと落語テープを聴いて憶えたに違いない。 江戸っ子という訳だが、東京の下町なら良いが、この八王子では似合わない。 【茶鼠】は自称、鼠小僧次郎吉の子孫だ。 鼠小僧次郎吉とは、江戸時代に吉原に生まれた義賊(貧乏人に汚職大名や悪徳商人から盗んだ金を分け与える盗賊)である。 この【茶鼠】が経営するマンガ喫茶は、犯罪ギルドの【東の管区】の情報交換&斡旋所なのだ。 犯罪ギルド── ギルドとは職業組合の意味で、犯罪ギルドは文字通り犯罪者の秘密結社である。 まぁ、悪党の巣窟という表現が妥当であろう。 その結成年代は定かではないが、安土桃山時代の石川五右衛門が創設者だと謂う誠しやかな話がある。 日本全国を東西南北の【管区】で分け、それぞれを最高評議会の幹部が取り仕切っている。 【白雪】と【蒼】がチョコラテを飲み、ほっと嘆息を漏らす。 それを盗み見ていた周りの男共が、同じように嘆息を漏らした。 【白雪】はマンガ喫茶【茶鼠】のアイドルなのだ。 しかし、かつて【北の管区】で『最凶の殺し屋【白雪姫】』の異名を取った【白雪】を恐れて、普通の犯罪者は近づけず見るだけだ。
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