第1話「【鉄のハインリヒ】と【赤ずきん】」

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可憐で西洋人形のような少女に、悪党共は恐れをなしているのだ。 その白磁の肌、闇色の深遠な瞳、濡れ羽色の青みを帯びた黒い髪― そして、気高い気品を醸し出す端正な美貌は、まだ幼さを残した少女という特権階級の至宝だ。 髪の白いリボンは17歳にしては幼いが、それを感じさせぬのは気品ゆえか。 白い生地にクロスの刺繍を施した衣装は、一見ゴシックロリータに見える。 だが見るものが見れば、それが19世紀の英国人デザイナーのシャルル・フレデリック・ウォルトの逸品だと知れよう。 一方の【蒼】は、貴公子を想わせる、絶美な青年の容姿をしている。 美の女神アフロディテは海の泡から産まれたというが、その地中海の紺碧を閉じ込めたような蒼い瞳と長い髪。 美の女神ですら嫉妬する、甘く蕩けるような秀麗な美貌。 天上界と地上の絢爛な美を、凝縮させて形を成したのが【蒼】だ。 【蒼】と【白雪】、このふたりのコンビを、あたしは【蒼白】コンビと密かに呼んでいる。 「相変わらず、【茶鼠】のチョコラテは絶品ですねぇ」 蕩けるような美貌で【蒼】が舌鼓を打つ。 【蒼】は甘い物に目がない。 【蒼】の身体を舐めたら、チョコラテのように甘い筈だ。
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