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残響が消える間もなく、鋼鉄の腕を持つ巨漢は【白雪】を払いのけた。
腰まである長い黒髪をたなびかせて、飛び退く【白雪】。
彫りの深い顔、高い鼻梁、窪んだ眼―
融通が利かなそうな顔は、きっとドイツ人に違いない。
「大丈夫か、【赤ずきん】?」
外国訛りのある低い声。それでいて、意志の強さを感じさせる響きがある。
「平気だ、ハインリヒ」
赤いフードを被った人影が答える。その声色は若い女のものだった。
【赤ずきん】のその声だけ聞き、ハインリヒと呼ばれた巨漢は【白雪】を襲った。
鈍く光る鋼鉄の腕は義手か? それとも全身が機械化された戦士か?
可憐な【白雪】は表情を変えず背も向けず、後ろへ退いて行く。
端から見れば、人外の巨兵に追われる幼気な少女の図である。
どう贔屓目に見ても、少女が適う筈もない。
その証拠に、迫るハインリヒの口元に笑みが浮かんだ。
それを見守る【赤ずきん】が、突然身を翻した。
〈シュバッ!〉
【赤ずきん】が元居た空間を、水鏡のような剣が空を裂いて穿たれた。
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