だから私は……

14/29
前へ
/395ページ
次へ
 再び電気を消して二度寝しようか迷っていた矢先、獣の爪がフローリングの床を打つあの音が聞こえた。 チッチッチッチッチ……  やがてその音は私の部屋のドアの前で止まり、お次は爪でドアを引っ掻く耳障りな演奏が始まった。  私がそれに応答せずにいると、今度は雌の中型犬特有の甲高い鳴き声が廊下に木霊した。  二日前までの私なら何だかんだ言って、この可愛らしい騒音の張本人を招き入れていただろう。  だが、今の私にはドアを開けてあげる気力も、騒音を叱る気力もなかった。  めっちょも暫くは私譲りのしつこさで粘りを見せたものの、やがて、爪が床を打つ音は寂しそうに遠ざかっていった。  私は出勤時間ギリギリまで、このアメーバのような状態を維持し続けた。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1705人が本棚に入れています
本棚に追加