得体の知れない恐怖

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 何とも言えない歯痒さに私が唇を噛み締めていると、中田さんが声を掛けてくれた。 「……良子さんのお店、『シェバト』って言うんだ。」 「え……? 」  中田さんの不意討ちに危うく手が止まりかけた。 「行ってあげなよ! きっと、喜ぶよっ! 」  自分が恥ずかしくなった。 こんないい人を疑いまくっていた自分が。 「私が……行ってもいいんでしょうか? 田丸さんの件もあるし……警戒させちゃいませんかね? 」 「大丈夫だよ! 良子さん、ソフィアさんのこと誉めてたよ! “あの子はすっごく頑張ってた!” ってね! 」 暖まったオイルよりも熱いものが胸の奥から込み上げてきた。 「ありがとうございます……! 」  この日、私は今年一番の恐怖と、それ以上の喜びを経験した。
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