それぞれが背負ったもの

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 私が入社する前のことだった。 村岸というセラピストがいたのは。  良子さんの語る村岸さんは、簡単に言えば腹黒さの塊だった。  指名の取れない人間――言い換えると自分の地位を脅かさない人間だ――は、可愛がるが 良子さんのようにライバルとなりうる人間に対しては、平等に笑顔で近づき、後ろから刺すような人だった。  良子さんに対して村岸さんは口を酸っぱくして 『こんな職場、早く辞めた方がいいわよ?』 と、優しく諭していた。  私と違って良子さんは賢い。 村岸さんの腹の内は読めていたので 『そうですね。その内、辞めますよ?』 と、適当に合わせて流していたらしい。 ――それが村岸さんの狙いだと知らずに。
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