水と水

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 入ってきた時に受けた印象通り、男性は明るく、とてもお喋り好きだった。 会計の間も、準備している間も、よく喋る。 自己完結型のお喋りさんのようで、私に対して返事を求めるよりも、ただただ、自分の話を聞いて欲しいタイプのようだった。 これならまだ、気の利いた返しができそうにない今でもなんとかなりそうだ。  口角をつり上げた表情を保ったまま私が対応していると、男性が不意に口にした言葉が私の手を止めた。 「……で、さあ! 数年前に両親が死んでしまってぇ~っ! 」  つい数時間前の私なら日常会話として流せたであろう。 だが、今の私はその 『死んでしまって』 を、つい先程見てきたのだ。 ヤバイ…… 頼む。 頼むから、今だけ、泣かないでくれ。
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