水と水

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 母の涙声で紡がれた台詞が終わる前に、私はテーブルに突っ伏して息もできないくらい強くしゃくりあげていた。 意図せずともそれに自分のか細い声が混じり、子供のように情けなく泣きながらも、私はなんとか言の葉をかき集める。 「わたしも……いっしょにいく……」  めっちょの遺骨は、仏壇の右隣にある、掛軸の掛かったスペースに安置されていた。  遺骨ののった大の下にはめっちょの子犬時代からの成長を記録したアルバムが置かれていた。  アルバムの横にリンゴを添えると、母は両手で白い布に包まれためっちょの遺骨をかき抱くように撫でた。  目を閉じて下を向き、今の自分の手にある感触を、めっちょの毛並みのそれと必死に重ねようとしているようだった。 どんなに上等な布を使ったって、あの愛しい感触は再現できないだろうに……
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