冷血女の涙

4/9
前へ
/395ページ
次へ
 私が九年片想いした人と同じ関西弁で、透き通ったテノール。 裏表がなく、マイナスなことを一切言わない本当に出来た人だった。 男性不信になってもおかしくないようなあの環境で、この人なら大丈夫と思わせてくれる存在だった。  異性として見られることが大嫌いな私が、この人からの誉め言葉だけは好意的に受け止めれた。  たった五回しか担当したことがないのに、一番仲が良いお客様だと確信できた。  そんな藍田さんに、退職が決まってから私は一度も会えなかった。 運命のイタズラと言ってもいいほどのすれ違いにより、直接会って挨拶できなかったのだ。 チャンスはあったのに。 何度も何度もあったのに……  最後、なんとか電話で挨拶出来たものの、このことは私の中で大きなシコリとして残っていた。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1705人が本棚に入れています
本棚に追加