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「単純かなぁ…‥可愛い名前だと思うけどな」
その言葉に、隼汰の笑った顔に、驚いてあずさは固まる。そんな中隼汰は散らばった本を元に戻しながら、あずさの取ろうとしていた本を探した。確か、古めかしい赤い本だったはずだ。
「あ、あったあった。取ろうとしてた本って…‥‥」
そこまで言って隼汰の言葉が止まる。なぜなら本の題名を読んでしまったためだ。
『楽しい魔術入門~あなたもこれで立派な魔術師に!!~』
意外と言えば意外な本の題名。隼汰はさりげなくこの本では無いことを祈った。
しかし。
「あ、この本ですっ!ありがとうございます」
やっぱりかぁぁぁッ!!
珍しく激しいツッコミを入れる隼汰。
「…‥これなの?やっぱりこれなの?」
「はい。…‥あの、どうかしましたか?」
「‥…なんでもない。ただ、少し意外だっただけ」
そこまで話してあずさは納得したように言った。
「みんな意外だって言うんですよ…面白いのに」
あずさは不満そうに頬を膨らませた。その仕草が異様に可愛い。
「でもいいんです。みんながみんな同じものを好きになる訳じゃないから」
「…‥え‥」
その言葉に反応するように、何かが隼汰の奥で声を上げる。でもそれが何かは分からない。捕まえようとすればするほど、その『何か』はするりと手から溢れ落ちる。
側にあるのに、掴めない。
掴みたいものが何なのかすらも、霞みがかかったように分からない。
「あ、そういえば先輩は甘いもの苦手ですか?」
「え、ぁ…‥そんな事、無いよ。いや、寧ろ好きかな」
「よかったぁ。じゃあ、お礼は頑張っちゃいますねっ」
「…‥‥はぃ?」
話に着いて行けずに間抜けな声を上げる。しかし、女の子の暴走はそんな事では止まらない。
「そうと決まったらこうしちゃいられませんっ、材料を買いにいかなければっ!!」
ちょっと待った、と隼汰が言った時に彼女は後ろ姿しか見えなかった。そんなあずさの後ろ姿をみて軽く笑う。
「なんか、楽しい子だな」
自然と笑みが溢れる。考えてみれば、女子と関わったのは今回がはじめてかもしれない。
隼汰は人形には異常な程の愛情をもつのに対して、現実の女子を目の前にするとどうしても冷めてしまうという所があった。
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