絞殺魔くんと、無気力さん。

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にこやかに笑いながら、殺害予告をする青年。そこには罪悪感らしきものはいっさいない。 「と、言ってももう、廃業ですかねぇ」 「? 言ってる意味がわからないんだけど」 私を殺すつもりじゃなかったのかとは、さすがに言えなかったけれど、廃業とは、その通りの意味だろうか? 「あー。まぁ、そうですね。決めてたんですよ。犯行をする場合、一人にでも気づかれたら自首しようって、まぁ、僕としてはもっと女の子のうなじを眺めていたかったんですけど、ルールはルール、ちゃんと守らないと面白くないじゃないですか」 と、絞殺魔の少年は言う。相変わらず両手を広げて本気かどうかわからない。背後を見せた途端に首を絞めてきそうだ。 「うなじって、絞め殺すのに、うなじを眺める意味があるわけ? というか、なんで潮干狩りの時期にそんなことするの?」 なんで、そんなこと聞くのかわからなかったけれど、好奇心かもしれないと思った。目の前にいる少年は明確な目的がある。絞殺という犯罪行為だとしても私には欠けている部分だ。リスクを侵してまでやることじゃない。捕まれば人生はめちゃくちゃになるだろうに。 「んー、そんなに一気に言われても困っちゃいますねー。つーか、理由としては単純です。女の子のうなじって見てると絞め殺したくなるんですよ。綺麗だな。滑らかだなー。そこに自分の指を食い込ませていきながら『死が終わる』を瞬間をこの手で味わえる。病みつきなるんですよ。潮干狩りの時期を選んだのはみんな中腰になるから、目線は下に向いてて気づかれにくいからって理由ですかね」 噂の真相というやつは、大抵、くだらない真実のほうが多い。どれだけ世間でもてはやされていたとしても、目に見えない。耳に聞こえない部分はけっこうくだらない理由であることが多い。 アイドルのスキャンダルに、激怒するオタクと同じだ。 自分の感じていることが、真実の全てじゃないだろうに、誰もが自分勝手な解釈を下す。そこには嘘も勘違いも、すれ違いや間違いに行き違いだってあるはずなのに、誰もそれを認めず、自分が正しい。そうじゃないとおかしいと言い他人にレッテルを張っては喜ぶのだ。 こうじゃないとおかしい。こうでないとダメだと、うんざりするくらい。 「どうしたんですか? 殺されなくて放心でもしてるんですか?」 「別に、ただ、噂の絞殺魔さんがけっこう普通なんで驚いてるだけ」
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