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「世の中は言ってはいけない、タブーがある。ちゃんと覚えておくように」
特におばさんとか、おばさんとか、おばさんとか。
「イエッーサー」
と、わざとらしく敬礼しつつ、絞殺魔くんがニヘラと頬をゆるめて笑う。その笑顔は麦わら帽子と無邪気さが合わさってとても似合っていた。まぁ、彼が絞殺魔だということは変わらないだろうけど。
「もうすぐで終わりですねぇ。はぁー、僕もあと少しで塀の中かな」
ちらほらと散っていく人影を眺めながら、絞殺魔が言う。
「なんで、殺そうと思ったの?」
「…………別にこれといって理由はなかったですよ。気がついた時にはもう、殺してました。首を絞めている瞬間だけが僕でいられる。それ以外はなんとなく空洞みたいで、実感がない。ほら、小説家ってずっと書き続けてないと書けなくなるってあるでしょ」
「小説家に失礼。彼らは仕事、君は犯罪、そこには埋めることのできない溝があるってことを忘れないように」
と、言って、
「でも、空洞ってやつはわからないでもないかな、私も、何をしていいのかわかんなくて、もやもやしてる。まるで泥に濁った泥水の底を覗いてるみたいでもやもやしてる。どうしたいのか。わかんない…………でもさ、」
私は、
「君がここで殺してくれたら、それで終わるのかな? もう、苦しまずにすむのかな?」
と言った。絞殺魔は何も答えない。ただ、冷め切った視線をこちらに向けた。誰も見ていない。誰も、ゆっくりとその手が伸びてくる。私の首筋にその手が触れた。感触はひどく冷たい、死人のようだった。ギュッと首が絞められる。ドクン、ドクンと心臓の音が高い。時計の針がカチコチと音を鳴らすように、ドクンとドクンと鳴る。
そして、
「…………ダメですよ。死のうだなんて」
と、彼はギュッと私を抱きしめ、そのまま唇を奪い取った。短い、触れる程度のキスだ。
「ファーストキスだったんだけど? 絞殺魔くん」
「それはなにより、無気力さん」
と、彼は笑う。その姿がスーッと薄く消えていく。
「じゃあ、さようなら、無気力さん。もう、死のうなんて考えちゃダメですよ」
けれど、彼はそのことに気がついていないようだった。薄く、薄く彼は消えていった。
その後、私はとある話を聞いた。この町で起こった、一つの殺人事件。その被害者はこの町に住んでいた。麦わら帽子を被った少年だったらしい。死因は絞殺、犯人はその直後に逮捕。
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