4626人が本棚に入れています
本棚に追加
******************
「定食っつったら、トンカツ定食だろ。」
「はあ?豚じゃなくて、牛だろが。焼肉定食!絶対コレで決まり。」
「バッカだな、お前ら~。肉じゃなくて、魚だっつの。焼き魚定食が一番。」
………何の話だ。
昼休み。
食堂のおばちゃんから中華丼を受け取った俺は、そのまま真司達のいる席へ向かう。
いつものメンバーが並ぶ座席は、俺が見ても圧倒されるほど迫力があった。
真司に、鷹雄に、圭介に、広田。
この四人が一つのテーブルにかたまるだけで、何でこうも特別な空間に感じてしまうのか。
俺でこう思ってんだから、他の生徒なんて近寄り難くてなんねーだろうな。
思わず苦笑いがこぼれた所に、広田の声が響いた。
「おい、恭平!お前はどれだよ。つーか、焼肉だよな?」
「はげしくどうでもいいわ。」
「「ぁあ!?」」
三人の声を無視して、俺は真司の隣に座った。
「本当、どうでもいよね。」
そう言いながら、真司が俺ににこりと微笑みかけて来る。
真司はいつでも、柔らかい物腰に優しい声色で喋るから、側にいるとなんかホッとする。
でも、喧嘩や揉め事になると、誰よりも要領が良くて冷徹な恐ろしい面も持ち合わせているから、
きっとそういう矛盾した部分が、この独特の不思議な雰囲気を醸し出しているんだろう。
「さっきから定食と言えばっていうお題で、ずっと言い合ってるんだよ。」
「ふーん。俺は食堂のメニューの中じゃ、断然中華丼。この絶妙なとろみが最高なんだよな。」
「あはは、恭平も言ってること変わらないよ。」
「うるせー。」
こうして、いつもの当たり前な日常が過ぎて行く。
穏やかで、優しくて、俺にとってすげー大事な時間。
でも。
「そういや広田。てめぇまた女たぶらかしてただろ。」
こういう会話が出て来ると
やっぱり、どうしても。
やり切れない気持ちに支配されてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!