一章

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凌とは、家が隣だ。それは、幼馴染というだけじゃなく、もっと深い理由がある。 「お邪魔します」 スタスタと勝手知ったる風に上がり込む凌。 「ちょ、本気?」 慌てて部屋の前で通せんぼするけど、凌はそんなの余裕でかわす。 「いつもうちなんだから、たまには美菜んちでもいいだろ?」 「っでも!」 「…でも?何」 そう言われると、言葉に詰まる。 そして、そんなことなどお見通しだというように笑って、ドアを開けた。 「へぇ、意外と綺麗にしてるじゃん」 ベッドと机とクローゼットと、少しの雑貨。 我ながら、今どきの女子高生にしては殺風景だと思う。 「…それ、嫌味?」 「あ、いや」 気まずい空気が流れる。 うちは、両親がほとんど家にいない。 お父さんは会社の重役で、仕事漬けの日々。 お母さんは夜の街で働く水商売。きっと今は、新しいカレシとどこかに住んでるはず。 唯一の家族とも呼べるお兄ちゃんは、結婚してしまってもう家にはいない。 だから、この家には私1人。 「私の部屋にいても、面白くないでしょ」 何もすることがないから。 「ねぇ、凌の部屋に戻ろ…」
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