私と君と、俺

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「部長、書類が仕上がりましたっ!お目通しをお願いしますっ!」  やる気があるのは良いのだが、如何せん空回りするイメージが拭えない新入社員の彼女。  最近はやれ男女平等だの、ジェンダーだの煩くなった所為で、こういった学生気分が抜け切らない女子社員が増えた気がする。 「書類ならデスクに置いておけと言わなかったか?」  それに加えてゆとり教育、個性を重視するあまりにそれを履き違えた若者が多くてならない。個性とは基本あってこそというのが私の持論だ。  要するに、私はこの女子新入社員が苦手なのだ。話をまるで聞いてやしない。 「いえ、間違いがある筈なので直接伺った方が良いと思ったのでっ!」  ほぅら、言い訳ばかり上手い。こういう辺りもゆとり教育の弊害と言うんだろうか。  思わず頭痛すらしそうではあるが、彼女のやる気を摘む訳にも行かず。私は書類を受け取り、先程買ったドリンクを手に喫煙所への扉へ向かったのだが。 「あーっ!部長それ『らびゅん』ですよねっ!超意外っ!?」  抜かった、ついついコーヒーを買った気でいた。あぁ、目眩すらするかも知れない。 「それ若い子の間でスゴく流行ってるんですよ!カロチンとか、食物繊維とか、アミノ酸にクエン酸、コラーゲンにブドウ糖まで入ってるんですからっ!」  いや、得意気な所を悪いが、別に君が凄い訳では無いだろうとも言えず。 「あぁ、君がいきなり叫ぶからボタンを間違えてな」  我ながら咄嗟にしては上手く誤魔化したものだとは思うのだが、何故か彼女はやたらニヤニヤと私を見ている。 「ぶちょー……左右ならまだ分かりますけど、上下は苦しいと思いますよ?」  ……完全に私の失態だ、と言うかこの栄養素ばかりを詰め込んだドリンクを何故そんなにも推すんだ。  彼女が指差した先には成る程言い訳が利かない、一段ずらっと並んだ兎の小憎たらしい顔があった。 「……あぁ、買ったよ。悪いか……気になったんだ……」  これ以上は流石に見苦しいと観念し、私は掌に握って隠していた瓶を彼女の目の前に持ち上げて見せた。
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