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にやにやするばかりで特に言及も無いのだが。銜え煙草で書類に目を通す私の隣には、やたらと甘い香りをする煙草を手にした彼女の姿。
気にならないと言えば嘘になるし、かと言って一回り近く歳の離れた彼女との共通の話題も無い。
強いて言えば、上手そうに例の『らびゅん』とか言うドリンクを飲んでいる辺りだろうか。
「部長、部長、それ飲まないんですか?」
……煙草を手にしたままゆるりと首を傾げて見せる仕種はやけに蠱惑的だが、そのくらいは若者の嗜みなのだろう。一つ咳払いをした後に、銜えていた煙草を書類を持つのとは逆の手で離し。
「書類を読み終わってからだ、煙草と合わせて両手が塞がるだろうが」
とは言ったものの、喫煙所の空気清浄機の物置部分に置いたドリンクは気になっている。さっき彼女から聞いた限りでも、薬効成分やら美容成分やらで味には期待出来そうも無い。
「ふーん、じゃあ部長。ちょっと飲んでみて下さいよ!美味しいですから!」
新人類か君は!?読み終わったら飲むと言った筈だが、まったく話を聞いてやしない。これだからゆとりはと思っても仕方ないだろう。
やたらぐいぐいとドリンクの瓶を押し付けて来る彼女の勢いに負けたと言うか、少しばかり……間接キスとか言う下心があったのも否めない。
私もそれなりには男だ、都合良いシチュエーションには流されたりもする。
とまぁ、少しばかり彼女のドリンクを頂いた訳なのだが。
「……は?」
疑問符ばかりが浮かんだ、何故美味いんだ……効能重視の健康ドリンクじゃないのか!?
「えっへへー、美味しいですか部長?これは恋する乙女のエナジードリンクなんですっ!」
得意気に語る彼女と握られた間抜けな兎の顔を交互に見ながら私は狼狽えていた。何故美味い……。
「美味しく痩せよう、美味しく健康に、美味しく恋しよう。そんな三拍子が揃った女子による女子の為の女子によるドリンクがこれなんです!」
「いや、何故君が得意気なんだ」
つい、声に出して突っ込んでしまった。それ程までに衝撃的だった。健康ドリンクと言えば何処と無く薬品の味やらが付いて来るとばかり思っていた。
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