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思わず私は煙草を灰皿へと捩じ込み、自身で買ったドリンクの蓋を開けて口を付けたのだが……。
「味が違う……?」
先程彼女に飲まされたものは、爽やかな清涼感ある酸味とほのかな甘味に彩られていたが。
私が今飲んだモノからは、苦々しい風味の後に余韻として甘味が口の中に広がる不思議なモノだった。
「部長?味が五種類あるの見てなかったんですか?」
「……え?」
彼女の言葉に思わず自動販売機の方を見てみると、確かに微妙にパッケージが違う数種類のサンプルが鎮座していた。
「私のは『初恋レモン味』、部長のは『大人の恋愛味』ですね」
ネーミングした奴ちょっと来いと言いたくなるレベルだな、それでも流行るのだから現代は誠に恐ろしい。
「部長、私それだけ試した事無いんで一口貰って良いですか?」
「ん?あぁ、要らないから全部やるぞ?」
正直言って、大人の恋愛味は上手いもんじゃなかった。正に薬品だ。苦味と酸味と、風味付けと言わんばかりに追い掛けて来る納豆と葱の香り。勘弁して欲しい……。
だから私はなんの躊躇いも無く彼女へと瓶を渡して、書類をテーブルへ放り、新たな煙草へと火を付けたのだが。
「部長、これマズイですね……気持ち悪いです……」
「は?君!?一気にいったのか!?」
思わず煙草ごと吹き出しそうになるくらい、彼女は心底情けない顔をしながら口元を抑えていた。
そりゃそうだろう、何故商品化を止めなかったのかと疑問に思う強烈な不味さだった。
その味を思い出したのと、彼女の表情についついと表情が緩んでしまう。
「ぶちょおぉぉぉ……笑うなんて酷いですぅぅぅ……」
自業自得だろう、と思っても良いのだろうが。久しく笑ってなかった私に笑いを提供してくれたのだ、口直しくらいは奢ってやろう。
少し待てと言い含め、自分の缶コーヒーと彼女へはミルクティーを買って。
「あー……生き返りました、でもまだ苦いぃぃぃ」
勢いよくミルクティーを飲み干した癖に、まだ苦い苦いと騒いでいる彼女に私はまた吹き出していた。
「なんで笑うんですかぁ!?」
いや、なんでと聞かれても。面白いものは面白いからだとしか言えない様な……?
何かが違うな。
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