私と君と、俺

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 ふむと、私は顎に手を当てて考えてみる。何故だろうか。  思えば私はあまり笑った記憶が無い、学生時代も周りとソリが合わずに独りだった。それはまぁ、勉強に費やす時間を無駄にせずにすんだのだが。今となるとなんとも言えないな。 「部長?ぶちょおぉぉぉ!?」 「聞こえてるわぁ!」  まったく、耳元で怒鳴る奴があるか。と更に小言でも言ってやろうと彼女の方を向いたのだが。 「は?」 「……あれ?」  顔が……近い。おい、待て、君は何を目を瞑っている!?あれだぞ!?私など仕事一辺倒で生きていた男だぞ!? 「……君、此処は会社だ。慎んでくれ」  期待されていた事を分かっていても、私は彼女の肩を押してそっと拒絶した。 「……失礼します、書類お願いしますね」  あぁ、すっかり忘れていた。書類を読まなければならないんだったな。だが、どうにも落ち着かないのは何故だろうか。  ……新入社員の誘惑にすら勝てないとは情けない。私は軽く頭を振って、缶コーヒーのプルタブを開け、早くも三本目になる煙草へと火を点けた。二本目は随分無駄にさせられたと思いながら。  新入社員とのちょっとしたトラブルやら、見事なまでに難解な書類を眺めていたら随分と時間が経っていたらしく。  すっかり太陽が落ちてしまった暗い室内で、私はデスクに積み重なった書類を未だに片付けていた。  上からは他の下に割り振れと言われるのだが、どうにも自分でやらねばならない事柄が多過ぎるのだ。  ……否、私自身の育成力の不足だろうか。部長という立場を任されてから三、四年。それまでは順調に歩んできたつもりが、今やこのザマだ。  役職、とかいう奴は厄介だ。最近では私が私でない様な気さえしている。 「っ……誰だ!?」  部署には私一人だとばかり思っていた為か、ガタンと響いた音につい声を荒げてしまった。 「はいっ!起きてますっ!」  ……毒気が抜かれる、見事なまでに間抜けな回答だ。勢いよく立ち上がった彼女に、私は思わず失笑していた。 「生憎、此処はもう学校じゃないぞ?帰ったんじゃなかったのか?」  現に他の連中はデスクに書類を投げ出し帰宅している、無責任な限りだ。
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