第1章

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「おーい、出るぞ」 スーツに手を伸ばした瞬間、浴室から旦那の声。 背中に冷や水。 全身の毛穴が開いた。 いつもより早い。 軽く舌打ちをして返事をした。 「はーい。今行く」 浴室が湯気で靄っている。全裸の旦那がだらしなく立っている。 「寝ちゃったよ」 「ホント?あらら」 旦那の腕には7ヶ月になる娘が気持ち良さそうに寝ていた。 シャンプーをする体勢になると安心するのか、すぐに寝てしまう。 バスタオルを両手に広げ、娘を受け取る。 ほんのり上気した頬が、ピンク色に染まっている。 起きる気配はない。 バスタオルに包みベッドへ連れていった。 用意してあった紙オムツと着替え。 ふんわり香る石鹸。 ミルクの匂い。 ムチムチしたほっぺた。 さくらんぼの様な口。 小さな手…。 握った掌には、きっと幸せが詰まっているに違いない。
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