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私は僧を探す為に、歩き出そうとしたのだけれど。桃色の歌声が聞こえてきて、気付けば何かに誘われる様にそちらへと足を向けていた。
なんだろうこの桃色の歌声は、とても激しくて猛々しい。そして人を惹き付ける。
やがてその歌声の持ち主を見付けて私は唖然とした、赤いメタリックな光沢の壁に口が付いていたのだ。
その口は何を訴えるのか桃色の歌声を振り絞り続ける、私はその歌声に合わせてくるくると回りたい衝動に駆られた。だけど、抑えた。
胸元で強く手を握り合わせながら、壁に向けて問い掛けた。
「貴方はどうして歌うのですか」
歌の桃色がより一層濃くなった。
成る程と私は得心する、歌っているから歌うのだ。ならば私も回ろう、回りたいから回るのだ。
くるくると、回り。
あうあうと、歌い。
私達が幸せかは分からないけれど、少なくとも私は幸せだったのだ。
しばらくそうしていると、赤いメタリックな光沢のマンションの口が震え出して、桃色の歌声が止んでしまった。
そうしてからしばらく、ぞるりと青い輝く頭皮が口の中から出てきた。
「あぁ、君よ、君よ、ありがとう」
私はどういたしましてと答えながら回っていた。
桃色の歌声が消えてしまったからか、赤いメタリックな光沢の壁はどんどんと褪せて、ドス黒くぬめりとしていた。
それでも回り続ける私に僧が説いた。
「回るならばそれも良し、だが君よ、君よ、君は回りたいのか?」
回りたいから回るのだ、私は先に見付けた答えをぶつけながら回っていた。
青い輝く頭皮の僧はふむと頷き、ふわふわと浮きながら消えてしまった。
私は追いかけたかったのだけど、回りたいから回っていた。
いつまでも回っていた。
やがて死ぬ頃にはごちゃごちゃの色を巻き込んで回る私が居たのだけれど。私はおにぎりの山葵の味を思い出していた。
(了)
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