ヒーロー様はデートがしたい

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  「実は相談があるんだ」  赤髪の青年は、神妙な面持ちで切り出した。  時刻は午前十一時四十五分。  もうすぐ昼休憩の時間である。 「どうされました?」  私は内心 「面倒臭い奴が来た」 と思いながらも、笑顔を崩さずそう尋ねた。  すると彼は躊躇≪ためら≫うように口を閉ざし、 「実は会えないんだ」  途方に暮れた表情でぽつりと呟く。 「会えないとは、誰にです?」 「ここで五人程紹介してもらったが、誰も待ち合わせ場所には来なかったんだ……」  何ですと?  私は驚きに目を瞠った。 「キャンセルの連絡などはなかったんですか?」  気合いの入った燃えるような髪型も、その下にある眉が八の字を描いているせいで萎れて見える。  野性味溢れる美貌を曇らせて、相談者である桐谷 蓮氏はしおしおとうなだれた。 「詳しく教えていただけますか?」  これは由々しき事態だ。  当相談所が介入するのは、結婚を望む男女を引き合わせる所まで。  その後ゴールイン出来なかったとしてもそれはこちらの責任ではないが、確実に出会わせなければならないのだ。  勢い込んで尋ねれば、桐谷氏は若干身を退きながらも重い口を開く。 「待ち合わせ場所には三十分前に着いていたんだが――」  ふむふむ。  私は一つ頷いて、話の続きを促した。 「そこでボンノーンの襲撃に遭ってな……」  ふむふ――。  頷きが途中で止まる。 「悪の秘密結社の女幹部マーラーまでもが現れて、やむを得ず変身したんだ」  ふむ……。  そこで私は完全に停止する。  変身とは何だ。
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