第1章

3/130
前へ
/130ページ
次へ
僕は嘘つきです。嘘つきですが、ここでは正直に申し上げます。僕は初め、自ら進んで孤独を求めました。他人と付き合うのが億劫でたまらなかったのです。人が、うざいのです。自分の一挙一動に対する他人の目がどうしても気になります。公衆便所の前にできた列に並んでいる時も、後続の者から発せられる無言の急かしを肌で感じてしまうほどです。もちろん、仮に僕が十分な時間を割いて用を済ましたとしても、後続の者が気分を害して実際にドアを叩くとは限りません。でも、やっぱり怒るかも。いや、もしかすると、その人は心に余裕のある方で、急かしたい気持ちを我慢してくれているのかも。そうして幾つもの仮定を立ててみたところで、僕が他人の本意を知ることはありません。他人の考えていることなんて、さっぱり分かりません。他人の考えていることが不明だからこそ不安で、ならば相手に迷惑をかけない行動を取るのが最善の選択であるように思えます。けど、そうすると自分の願望は犠牲となり、僕は不愉快になっていきます。人は誰しも一人では生きていけません。それは十分理解しています。でも僕には、他人と接することにどうしてもしあわせを感じることができないのです。 しあわせって何ですか? お金をたくさん稼ぐこと? それとも、長生きをすること? 僕には到底、この世を長く生きることがしあわせだとは思えません。この世はそんなに素晴らしい場所ですか? 自分にはこの世ほど不条理な世界を他に想像することはできず、さもすれば、この世こそが地獄なのではないかと錯覚してしまいます。地獄で長生きをしたいと願う人がありますか? 孤独と不信に苛まれながら長い間生きるなんて、まっぴらご免です。僕はそこで二十六年を過ごしました。二十六年。もう、十分です。 また別の人は、自由であることがしあわせだと主張するかもしれません。 ああ、まったく! 自由がしあわせだなんて! 
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加