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授業の後恩師と会話をした。私は奈津子ちゃんについてたずねた。明るくてクラスの人気者でしょうねという感想を言うと、恩師は複雑そうな顔をした。
「人気者よ……でもちょっと問題があるわ」
よく分からなかった。奈津子ちゃんの性格は人にもてないはずがない。緊張で固まってしまった私の筋肉を軽妙な言葉でほぐした。言葉を交わすと夏の太陽のようなエネルギッシュな印象を受けた。私は頭を傾げながら小学校を出ると、学校前の広場のブランコに奈津子ちゃんがいた。私は妙にうれしくなって声をかけた。
「一人なの?」
奈津子ちゃんが苦笑いした。
「そう、一人です」
くたびれた声。奈津子ちゃんは体をのばす。私はしげしげと奈津子ちゃんの顔を見る。表情に力がない。しなびれて地面に横たわるひまわりのようだ。あの元気はどこにいってしまったのだろう。私は心配になった。
「大丈夫? 調子が悪そう」
「あぁ、すいません。みっともないところを見せて」
「そんなことないよ。でも元気がないよね? あ、もしかして今日の授業気を遣わせたかな? それで疲れちゃったかな?」
おどおどした私の言葉に奈津子ちゃんは目を見開いた。そして大きく笑った。
「嫌だなぁ。先生。ほら私、グルメですから。お腹が空くとすぐにガス欠するんです」
「そ、そう。そうなの」
私は困惑した。奈津子ちゃんの言葉が胸に刺さった。 じくじく痛い。奈津子ちゃんは冗談めかすが、明らかに気を遣っている。申し訳ない。私は奈津子ちゃんから目をそらしながら聞いた。
「大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。先生、申し訳ないんですけど今の私、何て言うか話をしてもつまんないです。しなびれたナスと同じです。食べられない食べ物って存在する価値ないでしょ」
絶句した。とても小学五年生の言葉と思えなかった。頭を下げて奈津子ちゃんは歩いていった。私は頭がくらくらして、思わず手で押さえた。
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