待って!

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 恩師の言葉が理解が出来た。ちょっとどころの問題ではない。奈津子ちゃんは大人すぎるのだ。でも大人すぎて、自分を軽く扱ってしまうのだ。弱い自分など価値がないと思っている。人気者の影を見た気がした。いや違う。誰しもが影を持っている。私は孤独という影を、奈津子ちゃんは弱い自分を排除する影を。私は自分しか見えていなかった。奈津子ちゃんの優しさをただ受け入れていた。奈津子ちゃんの影に呆気をとられていた。それってどうなんだろう。ここで奈津子ちゃんを立ち去ったら、このまま私が黙っていたら……お腹の底から熱が吹き出した。 「待って! 待って奈津子ちゃん」  大きな声を上げると奈津子ちゃんは驚いた顔をして私に身体を向けた。ポニーテールが大きく揺れた。   顔が熱かった。額に汗が流れた。心臓音がざわめく。次の言葉が思いつかない。最悪だ。当たり前だ。度胸がない女なのに。普段なら絶対やらないのに。でも今は。  逃げたらいけないと心が叫んでいる。
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