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うまく言葉が紡げなくて、ただ頷いた。
そんな私の髪の毛を黙って撫でる先生。
消毒の匂いの奥から、先生の香りを見つけてやっと、少し心臓が落ち着きを取り戻し始めた。
ゆっくりと体が離され、ベッド上の小さな隙間をトントンと叩く先生。
遠慮がちにそこに腰をかけて先生に体を向ける。
右手が優しく、私の前髪をかき分け頬を撫でた。
点滴の入ったままの手の甲が痛々しくて、そこに自分の手を添えることを躊躇した。
「………痛みますか?」
「薬効いてるから平気」
切れたら、痛いんだろうな……。
申し訳なさが胸に刺さる。
「いいんだよ、怪我は。
時間が経つにつれ治っていくんだから。
お前が無事だった。
それで充分」
ゆっくり、先生の手が私の顎に添えられ唇をなぞる。
「留守電聞いて………何かあったらって、気が気じゃなかった。
やっと見つけたのに、守ってやれなくて」
違う、の言葉の代わりに激しく首を横に振った。
「このまま目ェ醒まさなかったらって、怖くて仕方なかった。
ガラにもなく生まれて初めて、神頼みしたし………」
切なげに揺れる琥珀色の瞳に胸が締め付けられる。
「ホント、言うこと聞かない子デスネ。
諦めなさいって言ったのに。
アンタが休みなく俺のことひっかきまわしてくれるから………
アンタの名前呼ぶの、口癖になったデショ」
ふは、息を吐くように落とされた、
甘くて、湿度の高い微かな笑みに
脳がビリビリと痺れる。
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