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病院での一夜は、なんだかフワフワとした感覚だけを残して眠れないまま朝になった。
唇に残る体温と柔らかさが、嘘じゃないことを教えてくれる。
途端にきゅ、と胸が狭くなる。
先生が…………どんどん好きになる。
いつか身体を突き破って、想いが溢れてしまうんじゃないかって不安になるくらい、心の奥からジンジンと痺れが襲う。
ーーーーダダダッ。
不意に、消灯台に置かれた携帯が震えだした。
こんな朝早くに誰だろう。
そう思いながら手に取る携帯に、違和感を覚える。
「………あれ?」
着信相手の表示名を見て、さらにそれは増して。
『悠花』
私、『悠花さん』て、登録したはずなんだけど………。
それでも鳴り止まない携帯に、一瞬迷ったけれど通話をタッチした。
「もしもし」
『え、と?
恭一くん………』
「あ、ごめんなさい。郁です」
悠花さんの、きょとんとした驚いた声に慌てて名乗ると、少しの間を置いてクスクスと笑い声が漏れた。
『なんか、前もこんな会話したわね』
「ホントだ」
柔らかで涼しげで、鈴の鳴るような悠花さんの声。
それが今日は一段と穏やかで私もつられて笑みが丸くなる。
『また、携帯落としたの?』
「え?
あれっ!?やっぱりこれ、私のじゃないですよね。
なんかおかしいなあって………」
『ふふふ、今度は偶然なの?………やっぱり神様はいるのね』
「?」
『何でもない。ちょうど良かった。
私、郁ちゃんに謝りたかったの』
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