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濁った水のように、悠花さんの声色がくぐもっている気がする。
『恭一くんをとことん困らせてやろうってあんなことしてたら………郁ちゃんと龍平くんが来たのよ。
あなたたち見た途端、すごくまぶしくてびっくりした。
なんでかしら。
全身で呼吸してて、みずみずしくて………。
すごく眩しくて、うらやましかった』
掠れた声で呟く悠花さんの声に、携帯を当てた耳が、ジンジンと鼓動を打つ。
『龍平くんのこと子供だって思ってたのに、違ったね。
本気で怒ってくれて恥ずかしいやら情けないやら。
……でも、嬉しかった』
柴田君が直接聞いたら、今の言葉をどう思うのかな………。
『だけど一番堪えたのは恭一くんが、あなたの名前を小さく呼んだ時の、あの姿』
「先生の?」
『長く一緒にいて、恭一くんは私のことが好きなんだって思いこんでたのかな。
その恭一くんが………あんなに辛そうな顔で拳握りしめて郁ちゃんを見つめているのを見たとき、やっと気づいたわ。
私と同じ思いさせてるんだって』
小さく息を吐いたあと。
『手の届くところに郁ちゃんはいるのに、私は航大が遠いからって
恭一くんにまで、それを押しつけてたんだね。
私、航大を待ってるんじゃなくて………航大が消えるのが怖かったんだと思う。
だから、航大に一番近かった恭一くんを、手放したくなかったの』
ごめんね………そう言って涙に濡れた悠花さんの呼吸が鼓膜を震わせる。
『………宣戦布告、覚えてる?』
「あ………」
自分の生意気っぷりを思い出して、苦々しいうめき声がこぼれた。
『ふふふ、降参よ。
ただしーーーーー』
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