第1章

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***** 面会時間の終わった院内は、波が去った後のように静かで、スリッパで歩く音がやけに大きく響く。 看護師さんに教えられたとおり、非常階段を使ってナースステーションを避けた。 長く続く廊下の両側にある病室。 その一つ一つの番号と氏名を注意深く見ながら目的の部屋を探す。 ーーーーー点滴が終わって。 処置を終えた私に、看護師さんが小さなメモ紙を渡してくれた。 「本当はダメなんだけど………。 いい?次の見回りは2時間後だから、それまでには必ず、戻ってきてね?」 「はい。本当にありがとうございます」 困ったような笑顔でため息をつく看護師さん。 「あなたも冴島さんも、本当に頑固なんだから。 愛の力はすごいわねぇ」 「…………」 その言葉に顔が熱くなって俯く。 どうしても先生に会いたくて、病室を調べて欲しいとお願いした。 最初は渋っていた看護師さんがあまりの私のしつこさに負けて今に至るんだけど。 「………頑張ってね。これからも」 思わぬセリフに顔を上げると。 とても穏やかな笑みで私を見つめていた。 「きっと、辛いことの方が多いと思うけど………頑張ってね」 ああ、そっか。 多分、この人は分かってるんだ。 私が向かっている、この気持ちの先を。 「………はい」 その気遣いに感謝しながら、ゆっくり頷いた。
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