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「あった………」
ひとつの個室の前で、ポツリと声が漏れた。
『冴島 恭一』
先生の名前を心で呟くと、それだけで胸がきゅ、と鳴く。
扉の横には『ope後 観察中』と札が掛かっていた。
ここまで来て、足がすくむ。
先生、すごい大怪我だったらどうしよう………。
起こさない方がいいかもしれない………。
ぐるぐると回転する頭で、ノックするのを戸惑っていると。
「…………あの、何か?」
横から話しかけられて、ドキーッと心臓と体が同時に跳ねる。
慌てて声の主を見ると、背の高いショートカットがよく似合う凛とした女性が立っていた。
「ここに………ご用ですか?」
「い、いえ、あのっ」
突然のことに頭は真っ白、声ものどに張り付いて言葉が出てこない。
まるでいたずらが見つかった小学生みたいに、右往左往してしまい完全にパニックに陥ってしまった。
「ご、ごめんなさいっ」
「………あなた、
ひょっとして『カオル』さん?」
「へ?」
頭を下げて、この場から逃げ出そうとしたのに、名前を呼ばれ間抜けな返事で顔を上げた。
「あー、そうー、あなたが。
やだごめんなさい、私てっきり………。
カオルさん、じゃなくて『カオルちゃん』
なのね」
思考回路がうまく復旧しない私をよそに、合点がいったという風にその人はにっこり微笑んだ。
あ…………。
この目元………。
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