第1章

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「あった………」 ひとつの個室の前で、ポツリと声が漏れた。 『冴島 恭一』 先生の名前を心で呟くと、それだけで胸がきゅ、と鳴く。 扉の横には『ope後 観察中』と札が掛かっていた。 ここまで来て、足がすくむ。 先生、すごい大怪我だったらどうしよう………。 起こさない方がいいかもしれない………。 ぐるぐると回転する頭で、ノックするのを戸惑っていると。 「…………あの、何か?」 横から話しかけられて、ドキーッと心臓と体が同時に跳ねる。 慌てて声の主を見ると、背の高いショートカットがよく似合う凛とした女性が立っていた。 「ここに………ご用ですか?」 「い、いえ、あのっ」 突然のことに頭は真っ白、声ものどに張り付いて言葉が出てこない。 まるでいたずらが見つかった小学生みたいに、右往左往してしまい完全にパニックに陥ってしまった。 「ご、ごめんなさいっ」 「………あなた、 ひょっとして『カオル』さん?」 「へ?」 頭を下げて、この場から逃げ出そうとしたのに、名前を呼ばれ間抜けな返事で顔を上げた。 「あー、そうー、あなたが。 やだごめんなさい、私てっきり………。 カオルさん、じゃなくて『カオルちゃん』 なのね」 思考回路がうまく復旧しない私をよそに、合点がいったという風にその人はにっこり微笑んだ。 あ…………。 この目元………。
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